穴掘りの話
子どもの頃からの根性なしで、
落とし穴ひとつ満足に完成させたことがない。
しかし、地面を掘り続けたら一体どこにたどり着くのか、
どんな宝物が出てくるだろうと、
色々考えてわくわくするのは大好きだった。
地中深くはどんな場所なんだろう。
地球の裏側まで掘ることはできるんだろうか。
地球の裏側の人たちは、今頃何をしているんだろう?
そのわくわく感をひさしぶりに思い出させてくれた絵本が、
『もぐもぐとんねる』 である。
- しらたに ゆきこ
- もぐもぐとんねる
翌日からトンネル掘りを練習することになったもぐもぐが、
誰に教わらなくても掘れるんだと夜ひとりで掘り始め、
見当違いなところにばかり行ってしまう、
というコミカルなお話。
絵もかわいくて、しかもアニメを見ているように迫力がある。
主人公がもぐらなだけに、穴を掘るのが大得意で、
とんでもないところに出るまで掘り続けてくれるので、
見るほうは次はどこに行ってしまうのかとはらはらしつつも、
主人公が穴掘りをやめてしまうことはない
(ちょっと行き倒れになりかけるけど)ので、
安心してその行き先を楽しめる。
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一方、絵本ではないが、児童文学で、
穴掘りって子どもの頃はたいていみんな面白がるけど、
実はすごく大変なんだよ、というお話があって、
これはずいぶん前に読んで、大好きな本だ。
タイトルはそのものずばり『穴』 。
- ルイス・サッカー, 幸田 敦子, Louis Sachar
- 穴
冤罪で砂漠の更生施設に入れられた男の子が、
硬い地面に身長と同じくらいの直径・深さの穴を毎日掘らされる話だ。
何の目的もなく穴を掘り続けることで、
心身が鍛えられ、不良少年たちの更生に役立つ。
施設の関係者は穴掘りの効能をこう謳っているけれど、
実はこれには裏の目的がある。
主人公の成長あり、友情あり、冒険あり、
張り巡らされた伏線も最後には見事につながって
ちょっぴり不幸だったのが最後にはみんなよくなる、
ほんとに胸のすくような話で、大好きなのだが、
ここまで好きになったのは、やっぱり穴あってこそという気がする。
穴掘り作業じゃなく別の何かをやらされる話だったら、
施設の周りが不毛な砂漠に見渡す限り
穴ぼこがあいているという光景じゃなかったら、
この話にそれほど魅力を感じなかっただろう。
一見楽しそうだがやってみるとつらい穴掘り。
大変さはわかっているから、自分が掘るのも無論いや。
それなのに、
どんなに意味がなく、苦しいと言われても、
ばかばかしい作業に描かれていても、
穴を掘るという作業が面白そうに見えてしまうのだ。
きっと私の心にあいている穴=物語のツボの1つに、
穴についてのお話がぴったりはまるのだろう、とも思うし、
そんなふうに見えるように書かれているのだという気もする。