『おばけのひっこし』
さがらあつこ、沼野正子絵
『おばけのひっこし』
個人的お気に入り度:★★★
京の都の郊外の小さな家に、
おとど(身分の高い男の人)とその家族が住んでいた。
家が狭いので困ったおとどは、
都の近くの一軒の空き家に引っ越そうかと、下見に行く。
恐がるお付きを帰して、ひとりで泊まってみるおとど。
その家にはおばけたちが住んでいて、
おとどを追い出そうと、次々におどかしにかかる。
ところが、
女の子のおばけ「ほたるひめ」が目の前をゆらゆらしても、
男の子のおばけ「べんべろべえ」があかんべえをしても
おとどはちっとも恐がらない。
首の長い「くびひょろりん」や
火の玉のおばけ、「めらめらぼう」が出て行ってもものともしない。
とうとうおばけの親玉の「おばけのおきな」が交渉に乗り出し、
おばけたちが引っ越すことで合意に到る、
というお話。
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『おばけやしきへようこそ!』 を読んで、
おばけを恐がらない人間は
おばけにとっては脅威なのだというのがよくわかったが、
この絵本でもやっぱり、全然怖がらないおとどに
おばけたちのほうがたじたじとなっている。
おとどには参ってしまったおばけたちだが、
都から遠くても、家がせまくてもおばけだから平気、
というところはちょっとうらやましい。
- さがら あつこ, 沼野 正子
- おばけのひっこし
『ちいさなちいさな王様』
アクセル・ハッケ、ミヒャエル・ゾーヴァ絵、
那須田淳、木本栄子共訳
『ちいさな ちいさな王様』
個人的お気に入り度:★★★
- アクセル ハッケ, Axel Hacke, Michael Sova, 那須田 淳, 木本 栄, ミヒャエル ゾーヴァ
- ちいさなちいさな王様
以前から存在は意識していたものの、
micaさんのブログ で記事を見て、読もう読もうと思いつつ、
さらに月日が流れ(笑)、今頃読んでみました^^
micaさんの記事はこちら → 『ちいさなちいさな王様』
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全体の量としては少し長め。
「僕」 のひとさし指くらいの大きさの小さな小さな王様、
「十二月王二世」 は、
しばらく前から僕の家に遊びにくるようになった。
王様はおなかの出っ張った立派な大人なのに
子どものようなところがある。
クマの形のグミキャンディ、グミベアーをこよなく愛し、
遊んだり空想したりするのが大好き。
王様の国では、生まれたときには大きくて何でも知っていて、
色々な仕事をしなければならず
時間がたつにつれてだんだん小さくなり、
色々なことを忘れていき、そのうち仕事から解放される。
最後には小さくなりすぎて、見えなくなってしまうのだという。
そんな王様との、
もし不死になったとしたら、などを想像したり、
王様の絵を売りに行ったり、
王様と一緒にいつもの通勤の道を歩いたり・・
といった、いくつかのエピソードが綴られている。
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王様の出生の秘密がなんともロマンチックで、
命がどこへゆくのかなどについて、考えさせられる。
また、空想したり遊んだりすることがとても価値があることで、
小さくなるほど偉くなるから、
大きな人たちに色々と質問して
答えを聞いたそばから忘れてもかまわない、
などという王さまの国での常識は、
私の考える一般的な価値観とはほぼすべて逆で、
なるほど、そう考えるのも悪くないなあと感心してしまった。
空想したり遊んだりすることは、
現実的な仕事よりも大事というわけでもないのだろうが、
少なくとも同じくらい価値のあることだと思う。
それなのに日々の生活に追われて、
そういうことをあまりに後回しにしてはいないだろうか、
と自問させられた。
夢をしまっておく箱や、プードル救い機など、
出てくるアイテムもおもしろい。
『いつもちこくのおとこのこ--ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー』
ジョン・バーニンガム、谷川俊太郎訳
『いつもちこくのおとこのこ--ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー』
個人的お気に入り度:★★★
新歌さんのブログ の記事がきっかけで読んでみました。
ありがとうございます^^
新歌さんの記事はこちら → そんなことあるわけないよ
ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシーは
通学途中にワニに襲われ、
手袋を投げあたえてなんとか逃げ出す。
教室で先生に「マンホールからワニが・・」
と事情を説明するが、先生は信じてくれず、
罰として
「もうワニのウソはつきません、手袋もなくしません」
と300回書かされるのだった。
その後もライオンにおそわれたり、
高潮にさらわれそうになったりして
そのたびに遅刻するのだが、
先生は事情を信じてくれずに罰を与える。
しかしある日、ジョンが時間通りに教室に行くと・・・。
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まさに溜飲を下げるという思いのオチ。
人間、自分の目の前で起きたことしか、
なかなか信じられないものだ。
だから先生がジョンを信じられない気持ちも理解できるが、
・・でも私の中では、やはりざまあみろと思う気持ちの方が強い^^;
『イヌのしんぶんこうこく』
ロリー・S・ラーマン、アリソン・バートレット絵、
山口文生訳
『イヌのしんぶんこうこく』
個人的お気に入り度:★★★
- ロリー・S. ラーマン, Rory S. Lerman, Alison Bartlett, 山口 文生, アリソン バートレット
- イヌのしんぶんこうこく
田舎生まれの犬、ニーロは、都会で暮らすのが夢。
大きくなって電話が使えるようになると(!)、
さっそくロンドンの新聞社に電話して、
飼い主募集の広告を出してもらった。
条件は、メガネをかけていて、
できれば12才以下であること。
沢山の手紙が届き、
ニーロは友だちのジョージに手伝ってもらい、
必要な「諸条件」 を決めて、それにもとづいて
手紙を「だめ」 と「いいかも」 により分ける。
ジョージは赤と白のしま模様のオーバーオールを着た男の子で、
ニーロが生まれたときに会いにきてくれて以来の仲良しなのだ。
色々検討した結果、ニーロは
ロンドン中の美術館や劇場に連れて行ってくれ、
誕生日にはミルクセーキを飲ませてくれ、
毎日ブラシをかけてくれるという女の子に飼われることに決める。
ジョージは賛成してくれるが、なぜかちょっとさびしそう。
荷造りをしながら、
ニーロは以前決めた「諸条件」 を振り返る。
「ぼくがいられる場所があること 」
「どうぶつにしんせつであること 」
「心のやすまる家庭があること 」
そして、本当にぴったりな友だちが
すぐそばにいたことに気づくのだった。
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大切なものごと、近くにいる友だちの良さは、
当たり前に感じてしまい、
忘れてしまうこともあるもの。
いたずらにニーロの行動や飼い主候補を批判したりせず、
終始ニーロの幸せを願うジョージは
本当にすてきな友だちだなあと思う。
それと、これは書いた人が意図していないテーマかもしれないが、
ニーロは飼い主を探すために自分で行動を起こしたが、
実際には犬は飼い主を選べないことが多いもの。
一飼い主として、ペットのよき友でありたいと改めて思ったりもした。
ところで、6週間で「大きく」なって、
新聞社に電話をかけるニーロ。
犬の寿命は人間より短く、大人になるのも早いけれど、
それにしてもすごい。
『ひいらぎはかせとフロストマン』
たむらしげる
『ひいらぎはかせとフロストマン』
個人的お気に入り度:★★★
- たむら しげる
- ひいらぎはかせとフロストマン
ひいらぎはかせは、世界一の発明家。
あるときはかせの住む町に、
なんでもカチンコチンに凍らせてしまう氷の巨人、
フロストマンが現われた。
「でんきコート」 を着込んで町にでてみると、
人もどうぶつも、乗り物も建物もみんな凍りつき、
すっかり氷の町に変えられてしまっていた。
助手のロボットも凍らされて困ってしまう博士だが、
凍った池を見て、あるアイディアを思いつき、その実現のため
氷でできたロボット、「アイスマン」 を大量生産するのだった。
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氷を溶かし、フロストマンを追い払うそのアイディア、
スケールが大きくてびっくり。
シリーズものみたいなので、
他の絵本ではどんなアイディアが飛び出すか、
読んでみたくなった。
『おばけやしきへようこそ!』
キッキ・ストリード、エヴァ・エリクソン絵、
オスターグレン晴子訳
『おばけやしきへようこそ!』
個人的お気に入り度:★★★
- キッキ ストリード, Kicki Stridh, Eva Eriksson, Haruko ¨Ostergren, 晴子 オスターグレン, エヴァ エリクソン
- おばけやしきへようこそ!
深い森の奥の大きなおばけ屋敷に、
きゅうくつなくらいおばけが大勢暮らしていた。
そこにある日、両親とはぐれ、道に迷った人間の女の子がやってきて、
とても礼儀正しく、一晩の宿を求める。
おばけたちははりきって女の子をおどかそうとする。
しかし、ことごとく失敗する。
ヘビやクモ、カエルやカタツムリの入ったスープをすすめると、
「けっこうです。 わたし、これがきにいるとはおもえないの。
それより、ふつうのバタつきパンをください 」
べとべとした怪物と握手したときには、
指を洗わなくちゃいけないわ、と注意し、
ホールで大勢のおばけが一斉におどかそうとすると
うるさいと眠れないたちなので、みなさんも早く寝てね、
とにべもない。
おばけたちはとうとう女の子を、
おばけたちも普段は近づかないという、恐ろしい部屋につれていく。
それでも女の子は平気だった。
無事に翌朝旅立ち、両親と再会する女の子。
女の子の存在は、
当のおばけ屋敷で長年語り継がれることになるのだった。
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おばけたちと、女の子との
テンションの違いが面白い。
とても礼儀正しく、
しつけの行き届いているといった感じの女の子。
彼女にとって、おばけたちは
ちょっと無作法なところがあるけれど
一夜の食事と宿を提供してくれる恩人にすぎず、
恐いおばけという意識はまるでないのであった。
映画『モンスターズインク』 は
おばけをこわがらなくなった子どもたちを
脅威に感じているおばけたちの話だったが、
たしかにおばけにとっては、
おばけをこわがらない人ほど恐ろしいものは
ないのかもしれない。
また、人はこわいものや、苦手なものや人に対して、
とかく過剰反応してしまいがちだが、
彼女のように礼儀正しく、かつ毅然とした態度で対応することで、
必要以上に動揺せずに、
それらとつき合うことができる場合が多そうだ、
とも思った。
『にんじゃにんじゅろう』
舟崎克彦、飯野和好絵
『にんじゃにんじゅろう』
個人的お気に入り度:★★★
- 舟崎 克彦, 飯野 和好
- にんじゃにんじゅろう
「くろくもにんじゅろう」 は、忍者の家の1人息子。
毎日忍者学校で、
音を立てない歩き方やのろしの上げ方、
合言葉や水のある場所の探し方、動物の鳴き真似など、
彼に言わせれば「地味」 なことばかり勉強している。
ところがある日、学校からの帰り道、
誰かにつけられていると感じたにんじゅろう。
家に帰り着くと、いつもならカギのかかった玄関が開いていて、
両親を呼んでも出てこない。
さては両親が、自分の忍術をテストするつもりだな。
と考えたにんじゅろうは、
覚えたての忍び足で家の中を探し回るが、
手裏剣は投げてくるわ、声がつくり声だったりと、
この「両親」 、どうも怪しい。
屋敷の仕掛けでやっつけてみると・・・。
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かんちがいで恐れもせずに悪党をつかまえてしまった
というお話。
忍術を紹介する絵巻(ちょっとしたポスターぐらいの大きさ)や
巻末に「にんじゃ親子問答」もあり、
そんなに詳しく書いてあるわけではないが、楽しく読めた。
ちなみに親子問答のほうの参考資料は
『乱太郎の忍者の世界』 だそう。
『ともだちや』
内田麟太郎、降矢なな絵
『ともだちや』
個人的お気に入り度:★★★★
- 内田 麟太郎, 降矢 なな
- ともだちや
再読。
1時間100円の商売、「ともだちや」 を始めたキツネ。
ウズラのおかあさんに呼ばれたと思ったら
「赤ちゃんがねむったばかりなの 」 と注意される。
そこで今度は小声で歩いていると、
クマが何屋だか聞こえないままに声をかけてきて、
雇ってもらえることになったはいいが、
相手がクマだけにちょっとこわごわ
一緒にイチゴを食べたり、蜂蜜を食べたり。
疲れた様子のキツネに、今度はオオカミが
「おい、キツネ 」 と声をかける。
オオカミと楽しくトランプをしたあとに、
キツネはお代を頂戴しようとするのだが・・。
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この後の展開で、
キツネが本当はいかにさびしく、
友だちを欲していたかがわかり、ほほえましくなった。
絵もかわいくて、
なんだかオシャレな感じがして好き。
有名なシリーズなのだが、
私はこれ一冊しか読んだことがなく、
新歌さんのブログ で始めて他にもあることを知った。
友だちってなんだろうと、
色々な角度から考えさせてくれそうなこのシリーズ、
いずれは全作読んでみたい。
『いぬうえくんとくまざわくん1』
きたやまようこ
『いぬうえくんとくまざわくん 1
いぬうえくんがやってきた』
個人的お気に入り度:★★★
- きたやま ようこ
- いぬうえくんがやってきた―いぬうえくんとくまざわくん〈1〉
くまのくまざわくんはある日はらっぱで
犬のいぬうえくんに出会い、友だちになる。
一緒にボール遊びや水浴び、
ひなたぼっこなどをしたふたりは
くまざわくんのうちへ。
いぬうえくんが、「友だちは一緒に暮らしたほうがいい」
と言うので、2人は一緒に暮らすことになる。
いぬうえくんは「~~は○○したほうがいい」
というのが口癖のようである。
2人は家の中の部屋やイスや食器を分け、
そして仕事も分担する。
いぬうえくんと暮らすことによって、
今までは当たり前に思っていたことが、
実は自分らしさだったんだと気づくくまざわくん。
しかし、いぬうえくんに
食事の仕方をあれこれ言われたくまざわくんは、
かっとなって彼を追い出してしまうのだった。
いぬうえくんはもう戻ってこないのだろうか。
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いぬうえくんには友だちはこうあるべき、
という条件が沢山あるようで、
「ともだちはいっしょになにかをしたほうがいい」
と空を見上げたり、
「ともだちはひからびないほうがいい」
と水浴びをしたり、
「ともだちはみずくさくないほうがいい」
とそのあとすぐに体を乾かしたりするのが面白い。
冷静に考えると、このいぬうえくん、
結構図々しい居候のような気もするのだが、
出て行くとやっぱりさびしいし、
はちみつたっぷりのお茶を飲みながら涙する
くまざわくんに共感して、
ついほろりとさせられるのだった。
『はだかのサイ』
ミヒャエル・エンデ、マンフレート・シュリューク絵、
矢川澄子訳
『はだかのサイ』
個人的お気に入り度:★★★
- ノータリン・ノルベルトは、桁外れにうたぐり深いサイだった。
- 体全体をよろいで覆い、ふつうなら1本のツノが2本ある。
- そして 「ひとをみたらどろぼうと思え 」 が口癖。
- 沼のほとりに住んでいるノルベルトは、
- 「水浴びを禁ず」 という看板を立て、
- 小鳥のさえずりまでも許さない。
沼の水を利用していた他の動物たちは
困って会議を開き、ノルベルトをどうするか相談するが、
決まらないうちにノルベルトが乱入してきて会議は中断。
みんな夜のうちにこの土地を逃げ出すのだった。
唯一残ったのは、ウジクイのカールヘン。
よく水辺でカバやなんかの背中に止まっていたりする、
くちばしの赤い、黒い小鳥だ。
彼は小さくてすばしっこいのでノルベルトにつかまる心配もなく、
ノルベルトのほうでもちっぽけな小鳥で相手にしないので、
逃げ出す必要がなかったのだ。
カールヘンはひとつノルベルトをこらしめてやろうと一計を案じ、
支配者や征服者が必ず立てる銅像を
あなたも立ててはどうか、と口車にのせる。
周りに彫ってくれるものもおらず、
自分でも彫れないのなら、自分が銅像になればいい。
カールヘンにそそのかされて、
ノルベルトは自ら銅像になるべくポーズをとるのだった。
のまず食わずで立ち続けたノルベルトは次第にやせ細り、
ついに我慢できなくなって・・・。
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オチがなんとも滑稽で、しかし考えさせられた。
人間不信のヨロイは、
時として本人が見てもぞっとするような代物なのだろう。
ノルベルトがなんだか気の毒にさえ思えてしまう。
他人ごとには思えないからかもしれない。
- 矢川 澄子, ミヒャエル・エンデ, マンフレート・シュリューター
- はだかのサイ